whiTEE(以下、WT) :国産で良質なものづくりをされている一方で、割と手の届きやすい価格帯だと感じるのですが、どうしてこの価格設定が可能なのですか?
香取さん:それは、工場の人への利益還元を最優先させているからです。そしてそれが一番の社会貢献だと思うからです。
そのためにも、量産を前提とした生産体系をとり、工夫をしています。例えば、1万円でTシャツ30枚作るのと、この価格帯で100枚作るのでは、どちらの方が利益を出せるかを考えてみてください。この価格だと、消費者の方も手に取りやすい価格なんです。
一枚のTシャツあたりの縫製価格の相場は、決まっています。この上乗せ部分は全て製作を依頼するブランドの利益となるのですが、ナインオクロックではこの手取りを減らし量産をすることで利益の最大化を図っています。そしてその結果、地域の経済が振興する。これが地域や生産地への一番の「エシカル」だと思います。
WT:ナインオクロックさんは「エシカルブランド」と謳っていませんが、それには何か理由があるのですか?
香取さん:産地だけでエシカルかどうかは決まるものではありません。たとえバングラデッシュや中国などでもきちんとした労働環境で、適正な労働賃金をもらっていたら非エシカルとは言えないでしょう。「エシカルだから」買うのではなく、「ちょっと高いけど良いものだから」買ってほしいと思います。
WT:なるほど。それでは、香取さんが目指していくナインオクロックのこれからのビジョンを教えてください。
香取さん:「ワンランク上のユニクロ」を作りたいです。ナインオクロックを略して、「ナイクロ」。ユニクロは海外に工場を持ち、現地の人を雇用して服の生産を行っていますが、ナイクロでは国内で生産を行い、「国内産のベーシックブランド」を作りたいです。
服の生産には、様々な作り手が関わっています。
まずアパレルショップやブランドが、主に商品の企画やデザインを行います。そして糸を紡ぎ、染色し、そこから生地を作ってから、縫製し、販売に至ります。
それぞれの工程は”分業”で職人作業ですが、この分業作業を、いつか”一貫”して行えるような生産体系を作りたい。オールジャパンメイドの服を作りたいです。
カテゴリ:サステナブル素材、公平な賃金と労働環境、伝統技術を守る
聞き手:熊谷文音
写真:大嶋結衣
ナインオクロック代表取締役 香取正博さん インタビュー
“洋服の生産において、本当に生産者のためになることは何かを考えた。
それは、「生産者にきちんと利益が還元される」しくみづくりだった。”
岩手県、久慈市。「縫製の街」とも呼ばれるこの場所で職人さんによって一つ一つ作られているTシャツを販売している(株)ナインオクロック。代表取締役の香取正博さんに、その生産背景や、Tシャツ製造への想いを伺いました。